五行歌集 「だらしのないぬくもり」 に見る五行歌の可能性【書評】

2019年8月3日




リアルにだらしなかったら何が悪い!

という訳で、今回は書評です。

五行歌の作品集ですが、腑に落ちる表現や「えっ、こんな歌でもいいの?というか歌なの?」と思えるような作品があり、五行歌の敷居の高さを感じさせません。

本の内容と五行歌についてみていきましょう。

五行歌とは

五行歌とはその名の通り、五行で完結する歌です。

音の数の制約を受けないため、自由な表現が可能です。

短歌のように字数を定めて、その中で表現するというのは、エッセンスが凝縮される分、難しかったりしますよね。

大正時代から、この短歌や俳句の制約から逃れて著名な作家が、五行の分かち書きで表現を行って、作品を書いてきました。
宮沢賢治、北原白秋,鳴海要吉、矢代東村、折口信夫など多くの歌人、詩人も五行歌を作成しています。

当時は五行歌という名称ではなく、1983年、草壁焔太さんによって五行歌と名付けられ現在に至ります。

「五行歌集 だらしのないぬくもり」について

だらしのないぬくもりは、リアルの友達が作成した五行歌集なのですが、ひいき目を除いても良い作品集であると思いますので、ご紹介いたします。

著者

大島健志(オオシマ タケシ)
神奈川県在住。1979年7月生まれ。 図書館情報大学同学部同学科卒。 母の影響で2014年頃から五行歌を書き始める。 現在、五行歌の会同人。

書籍情報

踏み切る
勇気も
無いくせに
着地の言い訳
考えている

人が傷つくのを
見るのが好き
自分の心も痛んで
ああ 生きてるな
って思う

1ページに一首のせるという、贅沢な作品配置。

著者ツイッター

台風が
やって来そうな
空気だし
もうじき僕は
四十になるし

涙を拭けよ
You’ll Never Walk Alone
だぜ
われらの
象徴

誰かを出し抜き
幸せになる気はない
最後尾から
皆の幸せを
ニヤニヤ眺めたい

作品集とは違った、日常的なもの(実験的な作品)をメインに載せているアカウント。
作品発表というよりは、通常のツイッターにときたま作品が流れてくるようなイメージです。
作品ツイート以外はエンタメ系が多い印象。

作品書評

文学は難しくない

文豪、名作、古典などというくくりにおいては、ちょっと近づきがたいという印象があるかと思います。

名作と呼ばれる作品に触れてみると、こんなレベルのモノは作れない。
という気持ちになり、そうなると、自分にはできないなぁと思って、やってみることを放棄してしまう方がどれだけいるでしょうか。

しかし、この「だらしのないぬくもり」においては、共感できる部分がかなりあり、しかも自分にもできそう!という、ちょっと失礼な感想さえ生まれてくるかもしれません。

どこにでもあるような単語、難しくない解釈、想像できるシチュエーション。
これらを組み合わせて作品は作られています。

でも、それは、文学というモノのハードルを引き下げ、身近なものであるという印象を読者に持たせてくれます。

つまり、この作品集を読むことによって、自分も作ってみようかなと思わせてくれるところがあります。
作品集でありながら、自発的な入門書になっているのです。

なんとなくですが、人間の後ろ暗いところは、大っぴらにするのがためらわれます。
ところが、上でも引用した作品、

人が傷つくのを
見るのが好き
自分の心も痛んで
ああ 生きてるな
って思う

を見ると、ネガティブなことを吐き出してもいいんだ。と思え、また、自分と同じように屈折した心もちの人もいるんだという共感を得られると思います。

誰かが傷つくなんて本当は嫌なこと。みんなで幸せになってもらいたい。
でも、傷ついているのを見るのも好き。

という解釈が出来ますが、実はすごいのは後半になってから。

辛い思いをした人をみて、自分も傷ついている。
でも、つらいという感情を持ち続けているから生きているんだなという生の実感と喜びを表現しています。

前2行と、後ろ3行でまったく別の展開を見せています。

五行歌という、作品の性質上、一つの作品自体はあっという間に読めてしまいます。
でも、読み返して、じわじわと湧き上がってくる理解。

遅れてくる納得感がとても心地よいものに思えてくるのです。

身近なことだから現代に届く

昔の有名な作品を見て、これはすごい!と思える人がどれだけいるでしょうか。

その時代に即した考え方や兼ね備えている教養によって、作品に対する印象は異なります。

俳句や短歌は言葉の意味もさることながら、地域名などもかかっていることが多く、十分に理解していないと作者の意図した解釈にたどり着けないことがあります。

それはそれで、技法のひとつなのですから、完全解釈は無理かもしれません。でも、魅力を削がれている可能性がありますよね。

五行歌は、音や形式にとらわれないので、自由に表現できます。
それは、現代の言葉も自由に扱えるという事。

ハンガーを衣紋(えもん)かけと表現してもあまりピンと来ないのと同様に、文学的にするために難しい表現をする。そんなことがありません。
Wi-Fiなんて言葉が俳句に出てくることが想像できませんし、別の言い方もなかなか難しい。

でも、五行歌ならWi-Fiも扱えるし、なんならドリンクバーやマヨネーズだって好きに入れたらいい。

ドリンクバーもマヨネーズも、聞いただけでピンとくるし、人によっては映像も浮かぶことでしょう。
そういったことが、作者の実感の理解にもつながるし、自分もそう思うかもという共感にもつながります。

五行歌は現代だからこそしっくりくる形式なのかもしれません。

繰り返し読むことで深まる味わい

本書は108ページほどとという、煩悩にまみれたページ数でありますので、さっと読めてしまいます。
読むスピードが速い人ならば、10分足らずで読んでしまえるかもしれません。

ところが、一読した後、また時間をおいて読んでみるとなんだか気になるフレーズがあり、そのページの作品を繰り返し読んでしまう。

なぜだろうか。なぜ自分にはその作品が気になってしまうのか。
それが分からない。というもやもや感を抱いてしまうかもしれません。

何かの本質を突いているんだろうけれど、今はそれが分からない。

その引っ掛かりが、またこの本を手に取るきっかけになるのではと思います。

毎日読むものではないかもしれませんが、時折開いて、インスピレーションをもらえる作品になっていると思います。

こんな人におススメ

・五行歌に興味がある方
・何かを表現したい方
・大島さんのファンの方
・暗い情熱のある方
・そっと背中を押してほしい方

五行歌が気になった方は

五行歌が気になった方は、さっそくアクションをしてみましょう。
ざっと見ると以下のような楽しみ方があります。

・ギャラリーで楽しむ
・雑誌で楽しむ
・参加して楽しむ
・作って楽しむ

実は五行歌25周年記念

五行歌の企画展が、主要都市で開催されます。
近くにお住まいの方はちょっと覗いてみるのもいいかもしれませんね。

開催場所 東京・四谷ランプ坂ギャラリー
開催期間 8月9日(金)~14日(水)10:00~18:00(初日13:00から、最終日15:00まで)
住所 〒160-0004 東京都新宿区四谷4丁目20
開催場所 大阪・ホルベインギャラリー
開催期間 9月9日(月)~14日(土)11:00~18:00(初日12:00から、最終日16:00まで)
住所 〒542-0064 大阪府大阪市中央区上汐2丁目2番5号
開催場所 福岡・福岡市美術館 市民ギャラリー
開催期間 10月1日(火)~ 6日(日)9:30~17:30(4金・5土は20:00まで)
住所 〒810-0051 福岡県福岡市中央区大濠公園1−6
開催場所 盛岡・プラザおでって2Fギャラリーおでって
開催期間 11月8日(金)~11日(月)9:00~17:00(初日13:00から、最終日15:00まで)
住所 〒020-0871 岩手県盛岡市中ノ橋通1丁目1−10

雑誌で楽しむ

月刊誌「五行歌」というものが発行されています。

こちらを読むことで、五行歌に触れることが出来ます。

草壁焔太さん主催による五行歌の会のホームページ
五行歌の会

中に雑誌購読の案内があります。

参加して楽しむ

実際に五行歌の会というものが開催されています。

大島さんのツイートですが、五行歌会に参加されています。

五行歌会の参加方法は

・友人のつて
・インターネットでの募集
・雑誌『五行歌』での募集

などがあります。

友人で五行歌をされている方は、そうそういないかもしれませんので、ネットで調べたのちに問い合わせをしてみるのがいいかもしれませんね。

雑誌『五行歌』でも会の案内をしていますので、そちらを参考にして、参加してみるのもいいかもしれません。

自作して楽しむ

作品を作るのはどこにいてもできます。

ところで、この大島さんの縦書きの表現いいですよね。
iOS専用になりますが以下のアプリで書かれているそうですよ。

縦書きエディタ「TatePad」

Androidを使っている方は縦書き用のテキストエディタを使うと似たような表現ができるかもしれません。
ぼくは外では「小説ノート」というアプリを使って、文章を書いています。

小説ノート
Google Play で手に入れよう
テキストを編集した後に、アプリ内のビューアーで見るとこのような見え方になります。

こんな見栄えでツイッターで作った作品を公開するのも面白いですね。

空いた時間にひとつ作ってみてはいかがでしょうか。

まとめ

五行歌の魅力というのを伝えきれたかはわかりませんが、五行歌ってこういうモノなんだという事を理解していただけたらと思います。

物を作るという事は、何かに対して感性を働かせるという事でもあります。
ものをよくみたり、驚いたり、いろんな感情をはたらかせてみましょう。